一人遺産分割協議の可否

不動産の名義人である父の死亡後、母と一人息子が共同相続人になったが、相続登記をしない間に母が死亡した場合、父から一人息子に相続を原因とする所有権移転登記ができるでしょうか?

 

かつては一人息子が父の相続人及び父の相続人である母の相続人という二重の肩書で遺産分割協議をしたことにし、その遺産分割協議書(遺産分割決定書)を提出すれば、父から一人息子に相続を原因とする所有権移転登記が可能でした。

 

しかし、東京地方裁判所平成26年3月13日判決、東京高等裁判所平成26年9月30日控訴審判決により、上記の事例の場合、一人の相続人による二重の肩書による遺産分割協議が認められなくなりました。そのため、かつては可能だった父から一人息子に相続を原因とする所有権移転登記ができなくなり、原則通り、まずは父の死亡による母と子への所有権移転登記をして、さらに母の死亡による子への持分移転登記をする必要があります。


平成28年3月2日法務省民二第154号先例

一人遺産分割協議書は登記原因証明情報として適格性を欠くことはこの先例でも確認されました。

 

ただし、この先例によると不動産の名義人である父の死亡後、母と一人息子が共同相続人になり、【一人息子が取得する遺産分割協議が行われた後】、相続登記をしない間に母が死亡した場合は、この遺産分割協議は遺産分割協議書が作成されなくても有効であるため、母の死後一人息子が単独で作成した遺産分割協議証明書は登記原因証明情報としての適格性があり、これと一人息子の印鑑証明書を添付して父から一人息子に相続を原因とする所有権移転登記ができます。

 

この先例の問題点は、母の生前に一人息子が取得する内容の遺産分割協議が完了していたのかどうかは一人息子しか分からなく司法書士としては確認しようがないことだと思います。


遺産分割協議証明書例

 

遺産分割協議証明書

 

 令和1年5月1日甲野父郎(本籍 名古屋市西区児玉一丁目1111番地)の死亡によって開始した相続における共同相続人甲野母子及び甲野太郎が令和1年5月2日に行った遺産分割協議の結果、甲野太郎が甲野父郎の遺産である後記不動産を単独取得したことを証明する。

 

令和1年9月1日   相続人兼相続人甲野母子の相続人

           住所

           氏名 甲野太郎       実印

 

不動産の表示

 

所在 名古屋市西区児玉一丁目

地番 1111番

地目 宅地

地積 100.00㎡